池田英二 高木章司 髙木章司 山野寿久 松村年久 丸山昌伸 杭瀬崇 熊野健二郎 赤井正明
当院は地域の中核病院として、消化器外科領域において高い専門性と質の高い医療を提供しています。最新の医療技術と熟練した医療スタッフがチームを組み、患者様に寄り添った治療を提供しています。以下に、当院の特色をご紹介いたします。
1)当院は臨床研修病院で、以下の認定施設となっています。
2)食道、胃、大腸、肝胆膵の各領域に経験豊富な専門医・指導医が在籍し、専門分化されたチーム制により手術・術前術後管理を行います。重症例の手術後には集中治療専門医がICU管理を行い、ベストな医療を提供します。また、心臓、脳血管など併存症の多い患者様には術前から各臓器の専門医が介入します。
3)特に大腸がん、胃がん、食道がん、肝がんには積極的に腹腔鏡下手術を行い術後成績は良好です。各領域のページをご覧ください。
4)胆石症、胆嚢炎、虫垂炎、鼡径ヘルニア等、良性疾患の手術症例数も多く、腹腔鏡手術の割合が高いのが特徴です。
5)当院には救命救急センターがあり、毎日二人以上の担当医師が確保され、腹部救急疾患に迅速に対応しています。重症疾患でも高い救命率を誇っています。
6)症例数の多い疾患にはクリニカルパスを使用し、標準治療を行っています。これにより、病棟業務の効率化や在院日数の短縮が可能となりました。
外科では専攻医(後期研修医)を募集しています。
志望専攻科に関係なく、外科医を目指す若手医師を、広く募集します。
見学、研修についての質問、ご要望などには、随時積極的に応じておりますので、ご遠慮なくご連絡ください。
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臓器・疾患名 | 合計 | 鏡視下手術 | 麻酔の内訳[全麻] | 麻酔の内訳[腰麻] | 麻酔の内訳[局麻] |
---|---|---|---|---|---|
消化器[大腸] | 147 | 85 | 145 | 2 | 0 |
消化器[胆道] | 137 | 117 | 137 | 0 | 0 |
消化器[虫垂] | 115 | 72 | 115 | 0 | 0 |
消化器[胃・十二指腸] | 82 | 32 | 82 | 0 | 0 |
消化器[肝臓] | 31 | 14 | 31 | 0 | 0 |
消化器[小腸] | 20 | 7 | 20 | 0 | 0 |
消化器[イレウス] | 19 | 6 | 19 | 0 | 0 |
消化器[肛門] | 18 | 1 | 8 | 8 | 2 |
消化器[膵臓] | 17 | 1 | 17 | 0 | 0 |
消化器[食道] | 12 | 3 | 12 | 0 | 0 |
消化器[脾臓] | 4 | 0 | 4 | 0 | 0 |
腹部[ヘルニア] | 153 | 50 | 25 | 25 | 3 |
腹部[腹膜・腹壁] | 12 | 1 | 10 | 1 | 1 |
その他[CVポート] | 23 | 0 | 0 | 0 | 23 |
その他[リンパ節] | 4 | 1 | 2 | 0 | 2 |
総計 | 794 | 390 | 727 | 36 | 31 |
疾患 | 手術術式 | パスの入院設定期間 | 実際の入院期間(中央値) |
---|---|---|---|
急性虫垂炎 | 虫垂切除術 | 5日 | 4日 |
鼠径ヘルニア | 根治術(すべての術式) | 5日 | 5日 |
胆石症 | 腹腔鏡下胆嚢摘出術 | 6日 | 6日 |
肝がん | 腹腔鏡下肝切除 | 10日 | 10日 |
肝がん | 開腹肝切除 | 13日 | 14日 |
胃がん | 胃切除術、胃全摘術、腹腔鏡下幽門側胃切除術 | 16日 | 16日 |
結腸がん | 結腸切除術(開腹、腹腔鏡下) | 18日 | 14日 |
直腸がん | 腹腔鏡下直腸切除 | 18日 | 18日 |
がんの部位 | 手術症例数 | 手術死亡数 | 在院死亡数 |
---|---|---|---|
大腸 | 107例 | 0人 | 1人 |
大腸(結腸) | 71例 | 0人 | 1人 |
大腸(直腸) | 36例 | 0人 | 0人 |
胃 | 60例 | 0人 | 0人 |
肝・胆・膵 | 47例 | 0人 | 0人 |
患者様に寄り添った治療方針を提案いたします。
胃癌の手術は、ピロリ菌の除菌、内視鏡検査・治療の発展に伴って、全国的に減少傾向です。その中でも、手術が必要な患者様は一定数存在します。当院では地域の中核病院として、全力で取り組んでおり、日々手術を行っております。(図1)
当院の胃癌手術は、通常の手術であれば、術後10日前後で退院することが可能です。入院が長引くような合併症(Clavien-Dindo分類3a以上)率は6.7%(過去3年の平均値)であり、患者様に優しい治療を目標に取り組んでいます。
当院の胃癌治療の特色を紹介します。
近年では95%以上が腹腔鏡手術で行われています。(図2)
このデータから分かるように、当院では、腹腔鏡手術による胃切除を基本術式としています。
2022年に発表された全国的な臨床試験(JLSSG0901)の結果をもって、進行胃癌に対しても腹腔鏡手術が標準術式となっています。当院でも、内視鏡外科学会技術認定医のもと、積極的に腹腔鏡手術を導入しています。これまでの当院での進行胃癌に対する腹腔鏡手術成績を検討した論文では、全国的なハイボリュームセンターに遜色ないほどの良い成績でした。長年培ったノウハウを生かし、安全な低侵襲な手術を行っています。
当院では、胃癌の根治率の上昇と、胃の温存を目的とした、術前化学療法を積極的に行っています。これは、現在、臨床試験が行われている新たな治療方法です。
治療前は癌が大きく、以前では胃全摘が必要だった方でも、著効すれば胃を温存する手術を選択できる可能性があります。またこのような周術期化学療法をしっかり行うことで、胃癌の根治度を上げることも期待できます。当院でのこれまでの治療成績をまとめた発表では非常に良い結果(図3)であり、有効な治療法であると考えています。
これまで胃上部に腫瘍ができた場合は、胃全摘が一般的でした。しかし、胃全摘術をすると、食事量が減少し、15~20%の体重減少が起こると言われています。生活の質(QOL)の低下を防ぐため、胃全摘を回避する噴門側胃切除術を積極的に行っています。早期胃癌や前述の術前化学療法で効果があり、可能と判断すれば、この術式を行います。
近年、様々な医療の発展に伴って、患者様の高齢化や、多数の併存疾患をお持ちの方が多くなっています。当院は総合病院であり、そのような患者様に対しても、麻酔科を含め、他科の協力の元、手術可能な選択肢を提案します。
特に、併存疾患が多く、定型手術が困難な場合でも、縮小手術などを含めた治療法を提案します。
主にGISTなどの腫瘍に対してですが、内視鏡合同手術(LECS)も行っております。内科による内視鏡的治療と、外科的手術を同時に行って、Classical LECSやCLEAN-NET法などを行っております。
またステージ4の遠隔転移がある切除不能胃癌に対しても内科で化学療法をして著効すれば切除可能となることもあります。
このように、内科とも密に連携を取りながら、治療方針を決めています。
当院では全国に先駆けて、大腸領域での腹腔鏡手術を導入し、改良を加えながら積極的に行ってきました。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べて、創が小さく、傷みも軽く、回復が早いといった利点があり、現在、大腸がんを中心に、大腸ポリープや炎症性腸疾患、直腸脱などの大腸疾患に対して行っています。また本邦では2018年に直腸がん、2022年に結腸がんに対するロボット支援下手術が保険収載され、当院でも2023年1月以降、大腸がんのロボット手術を保険診療で行っています。当院では年間に約100例前後の大腸がん手術が行われており、約7割が結腸がん、残り3割が直腸がん症例です。過去10年(2013-2023)の大腸がんに対する腹腔鏡手術症例数は1000例を超えており、2024年現在、内視鏡技術認定医(大腸)スタッフ2名のもとで、低侵襲手術(腹腔鏡手術やロボット支援下手術)をほぼ全症例に対して行い、安全な手術かつ良好な成績に努めています。さらに進行または再発大腸がんに対しても、肝胆膵外科、呼吸器外科、消化器内科や放射線科など他科との協議を行い、さらに多職種による専門スタッフが連携してがんの進行度やそれぞれの患者さんの病状に応じて、手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療等を組み合わせた集学的治療を行っています。
(当科では、全手術症例をNCD(National Clinical Database)に登録しています。詳細についてはこちら(NCDホームページ一般のみなさまへ)をご覧ください。)
大腸がん治療の原則は切除で、完全切除の有無が予後を最も左右します。進行大腸がんに加えて、大腸ポリープや早期がんであっても技術的に内視鏡(大腸カメラ)的切除が難しい場合や、内視鏡治療後の追加切除が必要な症例なども手術適応になります。当院では周囲の臓器に浸潤している場合や転移がある場合でも、根治の可能性を追求し、他の臓器も含めて摘出する拡大手術(骨盤内臓全摘や仙骨合併切除など)も検討し、手術可能かどうか判断しています。また大腸がん治療は年々進歩しており、診断時に手術不能と判断されても、術前化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療などを組み合わせる事で、切除可能となる症例もあります。さらに診断時に切除可能であっても、再発リスクが高いと考えられる症例に対して、完全切除率の向上、局所再発リスクの低減、微小転移病変の制御などにより予後改善を図る目的で術前化学療法や放射線療法を行う事があり、個々の症例に応じて最も適した治療方針の立案が重要となります。
大腸がん術後の骨盤再発症例に対して、2022年より保険適応となった重粒子線治療の適応と判断した場合は当該施設(他県)への紹介も行っています。
大腸疾患に対する腹腔鏡下手術が1991年に最初に報告されて以来、大腸がんにおける腹腔鏡手術はその低侵襲性のみならず、治療成績に関する質の高いエビデンスが構築されてきており、現在では世界中で行われています。本邦でも大腸癌治療ガイドライン(2022)において大腸癌手術の選択肢の一つとして推奨されています。当院でも良性疾患~進行大腸がんまでほぼ全ての大腸疾患に対して、原則腹腔鏡手術の適応としていますが、高度な局所進行大腸がんや患者さんの病状や全身状態によっては適応外となる事があります。
腹腔鏡手術は、腹部に5-12mm程度の小さな穴を開けて(通常3~6か所程度)、そこから内視鏡(棒状のカメラ)や手術器具(鉗子やハサミ)を挿入するための筒(ポート)を挿入します。腹部を炭酸ガスで膨らませ(気腹)、ポートから挿入した内視鏡により腹腔内(術野)の状態を外部のモニターに映し出します。術者は、モニターに映し出される映像を見ながら、他のポートから挿入した手術道具(鉗子やハサミ)を使って、手術を行います。最後に切除した病変を含む臓器を小さな開腹創より摘出します。
このように実際に外科医が手で触れることなく、手の代りとなる道具を使用してモニター画面だけを見ながら行う手術ですので、開腹手術よりも難易度は高く、高度な技術が必要となります。従って、腹腔鏡下手術のトレーニングを積んだ外科医が行う手術となっています。
従来の開腹術に比べて創が小さいため低侵襲であり、疼痛が少ないだけでなく整容性にも優れているという利点があります。そのため早期離床が可能で、早期退院、早期社会復帰に繋がっています。
内視鏡カメラの拡大視効果とフルハイビジョンによる鮮明なカラー映像により細部まで詳細に観察できます。正しい剥離面の認識や残すべき血管や神経線維などの同定など、より繊細な手術が可能となり、開腹手術と比較して出血量が有意に減少する事が証明されています。
骨盤底深部など、通常の開腹術では視認し難い場所でも、腹腔鏡により良好な視野の元で手術を行う事ができます。
ロボット手術は通常の腹腔鏡手術をロボット支援下に行うものです。ロボット手術の特徴は鮮明な3Dモニターによる拡大映像と多関節機能かつ手振れしない鉗子により柔軟で緻密な手術が行える点で、骨盤の深部を操作するような前立腺がんや直腸がんなどでより簡単に繊細な操作が行える事から、さらなる手術成績の向上が期待されています。ロボット手術は現在世界中に普及しており、日本でも消化器外科、胸部外科、泌尿器科、婦人科領域などで広く行われています。大腸領域では2018年から直腸がん手術が、2022年から結腸がん手術が保険適応となり、全ての大腸がん患者に保険適応が拡大されました。そこで当院でも2022年に最新の手術支援ロボットであるダヴィンチXiを導入し、2023年1月から全大腸がんに対してロボット手術を開始しており、2023年は年間34例のロボット手術を施行しています。ロボット手術は従来の腹腔鏡手術の低侵襲に加えて手術がより簡単に、精密になる点でメリットが増えるため、積極的にロボット手術を行い、良好な成績を収めています。
当院におけるロボット支援下直腸癌手術記録の一例
大腸癌の術後は約5年間にわたり再発チェックのため3~6ヵ月毎に外来受診して頂き、血液検査やCT検査を行いますが、可能であれば近医のドクターやかかりつけ医にお願いして血液検査や予薬などの診療を分担、連携して行う方針としています。ご理解のうえ、ご協力よろしくお願い申し上げます。
わが国における死因の第一位は悪性新生物によるものです。そのうち肝がんによる死亡は第3位(男性で第3位、女性で第6位)を占めています。(厚生労働省大臣官房統計情報部、2009年人口動態統計)。肝がんにはもともと肝臓から発生した原発性肝がんと他臓器がんが肝臓に転移した転移性肝がんがあります。原発性肝癌のうち94%が肝細胞がんであり、そのうち約68%がC型肝炎ウイルス、15%がB型肝炎ウイルスの持続感染から発生しています(2004~2005年第18回全国原発性肝癌追跡調査)。B型およびC型慢性肝炎の患者さんは肝がんになりやすい高危険群、肝硬変の患者さんは超高危険群ということがわかっています。一方慢性肝炎や肝硬変に対して治療を行うことにより肝がん発生の危険性が著明に低下することも知られています。肝がんにならないこと、また肝がんになったとしても早期発見し根治的治療につなげることが必要です。そのためには、まず一人一人の方が自分がB型またはC型肝炎ウイルスに持続感染していないかどうかを一度調べてみて、もし現在感染していることが判ったら医療機関を受診し、正確な診断を受け、定期的な検査や適切な治療を受けることが重要です。
B型肝炎ウイルスは出生時母子感染~幼少期感染により持続感染状態(キャリア)となります。B型肝炎ウイルスキャリアの方の85~90%は成人期までに肝炎発症を経てウイルス量低値・肝機能正常の無症候性キャリアとなりますが、残りの方は慢性肝炎へ移行し、その後年率2%の割合で肝硬変へと進行します。肝がんの発生率は、無症候性キャリアから年に0.1~0.4%、慢性肝炎から年に0.5~0.8%、肝硬変から年に1.2~8.1%と言われています。なお成人期のB型肝炎ウイルス感染は主に性行為によるもので、急性肝炎を発症します。従来は成人期のB型急性肝炎からキャリア状態や慢性肝炎に移行することはほとんどありませんでしたが、近年増加しつつあるジェノタイプAと呼ばれるB型肝炎ウイルスの場合には1割の方は慢性肝炎に移行すると推測されています。
一方、C型肝炎ウイルスは血液を介して感染し、急性肝炎を発症後、約7割という高頻度で慢性肝炎に移行します。C型慢性肝炎は20-30年という長期間にわたり炎症が持続し、線維化が緩徐に進行して肝硬変に変化します。慢性肝炎から肝硬変へと線維化が進行するにつれて年間発癌率が上昇します。C型慢性肝炎のステージ別に見た発癌率(/人/年)は、F0(線維化なし)-F1(軽度線維化)で0.5%、 F2(中等度線維化)で2.0%、F3で5.3%、 F4(肝硬変)で7.9%と報告されています(Yoshida H、 et al. Ann Intern Med 131:174-81、 1999)。また高齢者になるに従って発癌リスクが高くなります。一方インターフェロン著効により発癌リスクは軽減します。
肝細胞がんの診断方法には画像診断(超音波、ダイナミック造影CT、EOBプリモビスト造影ダイナミックMRI)と血液腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-2、AFP-L3分画)があります。その他に治療を兼ねて行う血管造影およびAngio CTや、診断困難例に対して細い針で組織の一部を直接採取して調べる生検組織診断という方法もあります。肝がん早期発見のためには危険度に応じた計画的な定期検査を行うことが必要です。高危険群であるB型・C型慢性肝炎、非ウイルス性肝硬変の方は6か月毎に、超高危険群であるB型・C型肝硬変の方は3-4か月毎に、超音波検査と腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-2)測定を行うことが推奨されています。また超高危険群、腫瘍マーカーの上昇が続く場合、進んだ肝硬変で超音波での腫瘍描出が困難な場合にはダイナミックCTあるいはダイナミックMRIの実施を年1-2度程度組み合わせることが有効です。
肝細胞がんの患者さんの多くは肝硬変を背景に有するためしばしば肝臓がはたらく力(肝予備能)が低下しています。そのため治療の種類や範囲が制限されます。また肝細胞がんは何か所かに同時に発生したり肝臓内の他部位に広がることが多く、また治療を行っても新たに別の部位に発生しやすいことが知られています。これらの特徴を踏まえて、がんの大きさや数、肝予備能を評価した上で総合的に判断することが重要になります。肝細胞がんの治療方法には以下のようなものがあり、それぞれ長所と短所があります。この中から個々の患者さんに最も適した方法を選択して治療を行います。
(1)肝切除
がんを含めて肝臓の一部を切り取る方法です。肝機能良好である場合、最も良好な長期予後が得られます。当院では、日本肝胆膵外科学会が認定した高度技能指導医が肝臓手術を行っているため、術後合併症は極めて少なく、多くの患者は手術後10日以内に退院されています。しかし、開腹による肝切除術は大きく腹壁を切開するため、身体への負担が大きく、また、手術後に傷の痛みが大きいという欠点があります。この欠点を克服する手術が腹腔鏡下肝切除です。当院では、平成22年6月から腹腔鏡下肝切除を始めました。平成26年8月までに44例おこなっています。
腹部に4~6本のポート(カメラや鉗子を出し入れできる筒)を挿入して、肝臓を切っていきます。出血のコントロールが最も難しいのですが、近年、ソフト凝固と呼ばれる方法で電気凝固する機器が開発され肝臓からの出血を完璧に止血できるようになりました。はじめは、部分切除や肝臓の外側区域切除など簡単な切除から始め、今では肝右葉切除、左葉切除など系統的な大きな肝切除もできるようになりました。平成25年3月末の時点で29例行っています。
A. 開腹肝切除
肝右葉切除を行った患者。
右肋弓下に20~30cm長の手術瘢痕ができてしまいます。
転移性肝癌に対し肝右葉切除を行った患者
B. 腹腔鏡下肝切除
5本のポートを使用して腹腔鏡下肝部分切除した患者。臍を少し切り広げて切除した肝臓を取り出しました。
臍の傷はほとんど目立ちません。
5本のポートを使用して腹腔鏡下肝外側区域切除を施行した患者。大きな肝臓だったので恥骨の上を5cm程横に切ってここより取り出しました。
下腹部の横切りの傷は目立ちにくいし下着に隠れます。
(2)経皮的ラジオ波焼灼療法
超音波ガイドで腫瘍を描出し、局所麻酔を行ったうえで経皮的にラジオ波針を腫瘍に穿刺し、通電して熱凝固します。原則として腫瘍径3cm以下、個数3個以内、肝予備能Child-Pugh分類AまたはB、出血傾向や腹水がない場合が適応となります。ただし個々の症例の条件によって適応や方法(人工胸水・人工腹水下など)を変更する場合があります。
(3)肝動脈化学塞栓療法(TACE)
局所麻酔下に大腿動脈を穿刺して腹部大動脈から腹腔動脈、上腸間膜動脈、肝動脈などへカテーテルを挿入し、血管造影を行います。CTを併用することもあります(Angio CT)。肝細胞癌への栄養血管を確認し、マイクロカテーテルを選択的に挿入し、リピオドール(油性造影剤)加抗腫瘍剤、続いてゼラチンスポンジ細片を栄養血管に注入して塞栓を行います。
(4)肝動注化学療法
肝動脈カテーテルから抗腫瘍薬を注入する治療法です。カテーテル近位部を皮下に留置して(リザーバー)、薬剤を反復的・持続的に注入することもあります。肝予備能Child-Pugh分類AまたはBで、TACE不応例や、門脈腫瘍栓合併などでTACE不適応例などが適応となります。
(5)分子標的治療薬(ソラフェニブ)
内服抗がん剤による治療法です。肝予備能が良好(Child-Pugh分類A)で進行した症例やTACEの効果が不十分な場合などが適応となります。
(6)放射線療法
門脈腫瘍栓などに対して局所的に放射線照射を行います。
胆管は肝臓でつくった胆汁(消化液)を十二指腸まで導く管です。約8cmの長さがあり、太さも1cm以下がふつうです。胆嚢は胆管の途中に胆嚢管を介して合流しています。胆汁を入れて貯めておく袋で、食事が胃から十二指腸に送られると反射的に胆嚢は収縮して胆汁を胆管をとおして十二指腸に送り込み消化を助ける仕組みになっています。さて、この胆管の粘膜にがんが発生し、大きくなって胆管を閉塞するようになると胆汁の流れがとどこおり、黄疸、白色便、黄疸尿、かゆみなどの症状がでます。発生する部位により、肝臓、膵臓、周囲の血管などへ直接に浸潤し、また周辺のリンパ節に転移を起こします。胆嚢がんの場合は、胆管より胆嚢が大きく膨らみがあるのでさらに大きくなってから発見されやすいです。また、胆石を合併することが多いので胆嚢炎の手術の際に偶然発見されることもときにあります。胆嚢がんは肝に接しているために、肝への浸潤が高率におこり、また周囲組織やリンパ節転移も非常によくおこします。
超音波検査、CT、MRI(核磁気共鳴画像)、PTC(経皮経肝胆管造影)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)などを行って、がんの存在部位、周囲組織への浸潤の程度を調べます。
胆嚢がん、胆管がんの進みぐあいは、I期からIV期までの4段階の病期(進行度)で示します。
胆嚢がん
外科療法
最も根治的な治療法ですが、手術で根治できる割合が胃がんや大腸がんに比べると低いのが現状です。最も早期の胆嚢がん(I期)は胆嚢を摘出するだけで充分です。腹腔鏡下で行うときもあります。少し周囲に拡がった胆嚢がん(II期)には、拡大胆嚢摘出術と称して、胆嚢以外に胆嚢の接した肝臓や、胆管、所属リンパ節を一緒に切除します。さらに、肝臓や肝門部に拡がったものは肝右葉切除をしたり、膵周囲リンパ節や膵内胆管に浸潤したものは膵頭十二指腸切除(膵の一部と十二指腸を切除する)を行う場合があります。このような拡大手術はIII期やIV期の一部に行われますが、術後の合併症発生頻度が高くなり、リスクも高くなります。正確な術前の進展度診断が重要になります。
抗がん剤による化学療法
切除できない胆嚢がんには、抗がん剤を全身投与したり、肝動脈内に投与したりして治療します。副作用として食欲低下や、吐き気、白血球減少、貧血、脱毛などがあります。
胆管がん
外科療法
最も根治的な治療法ですが、胆管周囲には肝動脈、門脈という重要な血管が走行しているので、がんがどこまで進展しているかが手術可能か否かを判断する場合に重要になります。胆管がんは大きく分けて、肝臓より(肝門部胆管がん、上部胆管がん)と膵臓より(中部・下部胆管がん)に分けられ、肝門部・上部胆管がんは肝葉切除(肝臓の右側2区域か左側2区域を切除する)をしないと根治手術にならないことが多く、長時間に及ぶハイリスクな手術です。中部・下部胆管がんは膵頭十二指腸切除を標準的に行います。治癒切除ができれば長期生存する可能性もあるので、長時間に及ぶハイリスクな手術でも行う価値があります。
放射線療法
切除不能な胆管がんに対し行うことがありますが根治的ではなく、がんによる狭窄部に対して胆汁の通過をよくするために局所的に照射することがあります。副作用として消化管に潰瘍ができたり、制御できない出血がおきたりします。
化学療法
切除不能な胆管がんやその転移に対して、延命効果を期待して行います。
膵臓は腹部の最も深いところにあり、しかも重要な血管や神経叢、十二指腸、胆管、胃、大腸などに隣接しているため治療が最も困難な臓器です。膵臓は膵液という強力な消化液をつくり消化管に排泄する(外分泌機能)ことと、インシュリンなどのホルモンをつくり全身に供給する(内分泌機能)ことのふたつの機能をもった臓器です。膵液は主膵管に集められ胆管と合流して十二指腸の乳頭部から排泄されます。よって胆管とは密接な関係にあります。インシュリンは糖の代謝に重要なホルモンで、膵機能の低下によって糖尿病になります。膵管の上皮にできたがんが一般的にいわれている膵がんで、内分泌細胞からできた腫瘍は膵内分泌腫瘍と呼ばれ膵がんとは性質を異にします。ここでは膵がんのことを述べます。膵臓は大きく頭部、体部、尾部と三つの部位に分けられ、それぞれに膵がんが発生した場合、症状、治療法が違ってきます。
膵頭部がんは胆管に近いため胆管に浸潤し閉塞させ、閉塞性黄疸をおこします。黄疸により膵頭部がんが発見されることは日常的です。一方、膵体部がんや膵尾部がんは黄疸をきたしにくいため、受診が遅れさらに大きくなって発見されるため進行している場合が多いです。膵がん全体に共通する症状は腹痛、腹部不快感、背部痛、食欲低下、体重減少などで、症状が出たときにはかなりの進行がんか切除不能ながんになっていますので、膵がんの予後は非常に悪いものとなっています。
超音波検査は簡便で最初に行う検査としては有用です。これで膵がんを発見することもあります。次の検査はCTが有用で膵に異常があれば、ダイナミックCTやMRI(核磁気共鳴画像)、ERCP(内視鏡的胆管膵管造影)、PTCD(経皮経肝胆管ドレナージ)を行い膵がんの確定診断をします。腫瘍マーカー(CEA, CA19-9, Dupan-2,Span-1など)も測定し参考にします。時に腫瘤を形成する慢性膵炎との鑑別が困難な時がありますが、がんを否定できない時には手術を行います。浸潤傾向が無く、膵管内に限局して発育する膵管内腫瘍や膵内分泌腫瘍とも鑑別します。膵がんと診断されれば次に進展度診断(周囲組織への拡がり)が、切除可能か否か、切除対象にするか否か、に重要な情報ですので、ダイナミックCTで局所や転移の有無を詳細に検討します。腹部血管造影を追加して行うこともあります。
膵がんは診断時にはすでに周囲神経叢、血管、リンパ節への浸潤転移、肝転移、腹膜播種などをおこしているため切除の対象とはならないことが多く、切除できた場合でも顕微鏡レベルでは取り残しがあり根治的な手術になっていない場合が多くほとんど再発、再燃をおこして2年以内に死亡する予後不良ながんです。切除できない場合は6ヶ月以内に死亡することが多いです。よって外科療法だけでなく、放射線療法や抗がん剤を使った化学療法を併用しますが、依然として現在でも充分な成績を上げていません。
外科療法
膵頭部にあるがんは、膵頭十二指腸切除といって膵臓の頭部と胃の一部・十二指腸・胆管・胆嚢・周囲リンパ節・神経叢の一部などを合併切除します。胃は切除せずに温存する場合もあります。神経叢を広範に切除すると根治性はあがりますが術後重篤な下痢を引き起こしこれにより栄養不良をもたらしてしまいますのでこの点に関しては専門家の間でも意見の相違があります。膵体部や膵尾部にあるがんは膵体尾部切除といって、膵臓の体部と尾部、脾臓、周囲リンパ節や神経叢を切除します。現在、膵がんで膵臓全体を切除することはその障害の大きさに比べ利益は少ないのでほとんど行いません。
放射線療法
切除不能な膵がんの時に化学療法と併用して行いますが、がんを死滅させるほどの大量を照射すると副作用として消化管出血がおこり致命的になります。外科手術時に切除した後に開腹したままで局所に少量照射する方法は安全で多くの施設で取り入れられており当院でも行っています。しかしこの術中照射の延命に対する意義は議論の余地があるところです。
化学療法
現在、膵がんに有効な抗がん剤はないといっても過言ではありませんが、他の治療法と組み合わせて行っているのが現状です。
当院は日本食道学会の食道外科専門医準認定施設で、安全な食道外科治療を行っています。
また日本食道学会の食道外科専門医(手術動画審査あり)が担当します。
当院の食道癌治療の特色を紹介します。
術後の重篤な感染性合併症が起きると、癌の再発が多くなるとされています。食道癌手術では縫合不全が最も多く全国平均で14%前後と高率ですが、当院では2.5%と少ないのが特徴です。また過去5年間でも手術関連死亡はなく、安全で確実な手術を行っています。
過去6年間の術後入院日数は22.5日(中央値)です。
切開創を最小限にとどめて、術後の創部痛、肺炎などをできるだけ少なくしています。過去6年間では前例胸腔鏡手術で行っています.
術前から退院までリハビリ科、歯科、薬剤師、栄養士など多職種が介入し、心臓や糖尿病などの併存症がある場合は疾患担当の内科、また麻酔科および術後はICUの集中治療専門医が介入して早期回復を目指します。
食道穿孔、破裂などは緊急手術、麻酔科、集中治療医などが介入して病院の総合力が問われます。当院では適切な手術、周術期の麻酔科管理、多職種による周術期管理により死亡率の高い疾患も治癒できています。
「鼠径」とは、太ももの付け根の部分のことをいい、「ヘルニア」とは、体の組織が正しい位置からはみ出した状態をいいます。
「鼠径ヘルニア」とは、お腹の内側の膜(腹膜)や腸などの臓器が、鼠径部の弱くなった腹壁の間から袋状に皮膚の下に出てくる病気です。俗に「脱腸」と呼ばれている病気です。
初期のころは、立った時とかお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に柔らかいはれができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。次第に小腸などの臓器が出てくるので不快感や痛みを伴ってきます。
はれが急に硬くなったり、押さえても引っ込まなくなることがあり、強い痛みや吐き気、熱などの症状が出ることがあります。これをヘルニアの嵌頓といい、すぐにはさまった腸を元に戻さなければ腸が腐ることもあるので、緊急手術が必要となります。
乳幼児の鼠径ヘルニアは先天的なものですが、成人の場合は加齢により組織が弱くなることが原因で、40歳以上の男性に多く起こる傾向があります。腹圧のかかる力仕事、立ち仕事に従事する人に多くみられます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳を良くする人、妊婦もなりやすいとされています。
鼠径部にはお腹と外をつなぐ筒状の管(鼠径管)があり、男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯が通っています。成人鼠径ヘルニアになる人は生まれたときからヘルニア嚢という袋(腹膜鞘状突起の遺残)があるのですが,鼠径管の出口を筋肉が塞いで腸が脱出しないメカニズム(シャッターメカニズム)が働いています。しかし、年をとってきて筋肉が衰えて鼠径管の出口が緩んで,出口を塞ぐメカニズムが壊れると、お腹に力を入れた時などに袋の中に腸など、お腹の中の臓器が出てくるようになります。これを外鼠径ヘルニアといいます。一旦壊れたシャッターメカニズムは元には戻らないので自然治癒は期待できません。
もう一つの原因として、腹壁には弱い場所があり、年をとってきて筋肉が衰えてくるとここを直接、押し上げるようにして腹膜がそこから袋状に伸びて途中から鼠径管内に脱出します。これを内鼠径ヘルニアといいます。外観は外鼠径ヘルニアと変わりません。 鼠径部の下、大腿部の筋肉、筋膜が弱くなって膨らみが発生するヘルニアを大腿ヘルニアといいます。
乳幼児の鼠径ヘルニアは腹壁が強くなることで自然に脱出しなくなることがありますが、成人の鼠径ヘルニアではそれとは異なり自然に治ることもなく、緩んでしまった腹壁は体を鍛えることで良くなることはありません。また、ヘルニアバンドという器具はありますが、ヘルニアの飛び出しを抑えるだけで、ヘルニアが治ってしまうことはありません。
成人の場合は一旦出来てしまったヘルニアは、手術しないと治りません。
手術では、腸をおなかに戻し脱出した袋を切除し、弱くなった腹壁の補強をします。腹壁の補強法として従来法と人工補強材を用いる方法がありますが、最近ではほとんど全例で人工補強材を用いる方法を行っています。
以前から行われている方法で、腹部の筋肉や筋膜を糸で縫い合わせ、鼠径管の口を縫い縮めることで補強します。この方法で補強すると縫い合わせた筋肉や筋膜の部分に”つっぱり”ができ、術後の痛みやつっぱり感の原因になることがあります。また、加齢によってさらに筋膜が弱くなると再発することがあります。再発率は約2~10%と報告されています。
筋肉や筋膜を縫い縮めずに、代わりに人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)を入れて補強する方法です。術後のつっぱりをなくすために1990年代になり開発され、現在日本で最も多く用いられている方法です。再発率は低く(1%ぐらい)、術後よりすぐに歩行が可能です。加齢によって筋肉や筋膜が弱くなっても補強材があるので再発を防ぎます。 当院では、メッシュプラグとクーゲルパッチを主に補強材として用いています。 いずれも麻酔は硬膜外麻酔とよばれる、腰の後ろから細いチューブを入れ、手術を行う部分だけの痛みを取る麻酔で行っています。
胆嚢や胃・大腸手術で行なっている腹腔鏡手術を用いる方法もあり、当院でも少数例ながら採用しています。カメラや道具をお腹の内側に挿入し、内部から人工補強材を当てる方法です。全身麻酔による手術が必要なこと、手術時間および費用がテンションフリー法よりかかります。
主な術後合併症は、出血(通常この手術での出血はごくわずかです。)、創感染(傷が化膿すること)、副損傷(神経や精管や腸管の損傷)、血腫(術後の出血で傷の周りが腫れること。時間の経過とともに吸収されます。)、ヘルニアの再発(当院では約1%)などがあります。いずれの合併症も可能性としてはかなり低く、過度の心配は必要ありません。
テンションフリー法の利点は術後の痛みが少ないことで、入院期間は3-5日。抜糸は1週間目に外来通院でおこないます。
退院後は、入浴を含めて通常の生活が送れます。事務仕事であれば1週間で仕事に復帰できます。力仕事、激しい運動は1ヶ月程度避けたほうがいいでしょう。
岡山大学医学部 昭和61年卒業 医学博士
昭和63年卒業
平成3年卒業
平成6年卒業
平成10年卒業
メッセージ / 平成10年岡山大学を卒業し、大腸がんを中心に消化器外科治療を行ってまいりました。 よろしくお願いいたします。
平成16年卒業 医学博士 岡山大学医学部医学科 臨床講師
平成18年卒業
平成24年卒業
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辻󠄀 尚志 | 原 享子 | 吉富 誠二 |
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辻󠄀 尚志(奇数週) | 吉富 誠二 | |||
吉富 誠二 | 原 享子 | |||
森川 希実 | 森川 希実 |
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丸山 昌伸(下部消化管) | 高木 章司(上部消化管) | 池田 英二(下部消化管) | 池田 英二(下部消化管) | 松村 年久(上部消化管) |
杭瀬 崇(肝・胆・膵) | 山野 寿久(肝・胆・膵) | 赤井 正明(上部消化管) | 高木 章司(上部消化管) | 熊野 健二郎(下部消化管) |
山野 寿久(肝・胆・膵) | ||||
丸山 昌伸(下部消化管) |
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黒﨑 毅史 | 黒﨑 毅史 |
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中西 浩之 | 中西 浩之 | 中西 浩之(午前・再診のみ) |
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中西 浩之 | 三谷 英信 |
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手術 | 手術 | 手術 | 手術 |