昨今変形性関節症に対する手術治療は増加傾向にあり矢野経済統計では2018年度には日本で股関節が6万件以上、膝関節が8万件以上の人工関節置換術が行われています。人口比率でいうと岡山県でも年間約2800人程度の患者さんが同手術を受けられている計算になり、今後更に増えていくことが推測されています。当院でも股関節と膝関節合わせると年間100人以上の患者さんに人工関節置換術を受けていただいていますが、今後さらに増加が予想されるため治療の専門化を推進するため人工関節センターを設立することといたしました。
センター長:古松 毅之、副センター長:三宅 由晃
現在人工関節の耐性は20〜30年といわれその治療成績は安定していますが、まず当院では第一に少しでも安全な治療が行われることを心がけています。そのため麻酔科や他の部署と連携し綿密な計画を立てています。股関節、膝関節とも手術は基本的に全身麻酔で行い、手術後の細菌感染を防ぐため、手術はクリーンルームという特別な手術室で行い、宇宙服のような特別な無菌の手術着を着て行います。また、人工股関節手術では出血が多くなることがあるので、手術前にあらかじめ自分の血液を貯めておき手術の際に使う自己血貯血を行い、輸血をなるべく必要としないようにしています。
当科では変形性股関節症や大腿骨頭壊死、関節リウマチに対し人工股関節置換術を主に行っております。当科の治療法の特徴としては基本的には筋温存型である前外側アプローチまたは後方アプローチで行っているため、早期に術後の筋力の回復が得られることにあります。*ただし変形の強い関節症、あるいは再置換術などに対しては従来型である部分筋切離法で行っております。
皮切の大きさはいずれも約12〜14cmで行っております。(難症例や再置換術ではこの限りではありません)
当科では病態・病状・年齢等に応じて高位脛骨骨切り術(HTO)、単顆型人工膝関節置換術(UKA)、全人工膝関節置換術(TKA)等を行っております。HTOは骨切りによる角度調整を行うことによって荷重部位を変えることで疼痛を軽減することを目的とした手術です。UKAは手術による侵襲が少なく術後早期に社会復帰が可能ですが、内外側いずれかの関節症に限定されるなどその適応に注意が必要です。TKAは末期関節症への適応に長けており長期成績も安定していますが、手術による侵襲が他の手術方法に比べると高いです。尚、関節症の進行度によってはいずれの手術方法も選択可能な場合がありますがその場合には年齢や内科的合併症あるいは社会復帰までに許容される期間などを考慮いた上で患者さんにあった手術方法を勧めさせていただくようにしております 。また当院における工夫としては麻酔科の協力のもと膝関節の手術の場合には大腿神経ブロックとカクテル療法の併用を行い術後の疼痛の緩和に努めていることです。この疼痛コントロールにより術後の早期リハビリテーションを開始することが可能となります。その他の膝関節の手術として鏡視下手術(半月板切除、半月板縫合、滑膜切除)なども行っております。
TKAは約12〜14cm、UKAは約10〜12cmの皮切で行っております。(難症例や再置換術ではこの限りではありません。)
股関節、膝関節とも手術後翌日には起立訓練、2日目から歩く練習を行います。当院での人工関節置換術術後のリハビリテーション上の工夫としては自転車エルゴメーターによる可動域や耐久性向上の運動です。自転車エルゴメーターは本来循環器領域における冠疾患の診断や評価、治療効果の判定などに使われるものですが当院では逆にエルゴメーターによる膝運動を主体として使用し、各メーターの測定をサブとして使用することで早期の可動域獲得を目指しております。
当院での人工関節患者さんの術後の平均在院日数は約3週間でありますが、ほとんどの患者さんは手術後2~3週で1本杖を使って歩けるようになり、階段昇降も可能となります。仕事や家庭の都合で長く入院ができない方は2~3週間で退院も可能です。逆に高齢の方で入院でのリハビリテーションを継続することを希望される方には看護師やソーシャルワーカー等の介入のもと地域連携によってリハビリテーション病院を紹介させていただきます。
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | |
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人工股関節置換術 | 51 | 67 | 47 | 54 | 76 |
人工膝関節置換術 | 91 | 80 | 83 | 57 | 85 |
計 | 142 | 147 | 130 | 111 | 161 |