・認知症の薬物療法について効果がないというイメージがあるが、どうか?
抗認知症薬の効果は服用した患者さんの半分あまりに見られ、症状改善する方もありますが、多くは現状維持をほぼ続けられていることです。従って、抗認知症薬に効果がないとは思っていません。
・最近週刊誌に記載されているワクチン療法について詳しく知りたい
講演でお話した通りですが、さらに詳細は次の講演までお待ちください。
・治療方法(薬をなるべく少量にしてもらいたいなど)について家族から医師へ希望を出せるのか?医師に交渉できる内容はどの程度までか?
いくらでも交渉してください。治療は強制ではありませんので患者さん、ご家族の希望にそったものを用意していこうと思っています。
・病院に行くタイミングはいつか?あまり気にせず楽しい生活を送ることがよいといわれていたので病院へ行こうということにためらいを感じるが、早い方がよいのか?
何事も早期発見・早期治療と考えています。疑問に思ったらなるべく早く専門医、あるいはかかりつけ医にご相談ください。
・片山内科クリニックでしか使われていないといわれていた薬の名前をもう一度教えてほしい。またなぜ片山内科クリニック以外では使えないのか?
発売前の治験という段階なので使える施設は限られています。詳細は片山内科クリニックにお問い合わせください。
・トレリーフはDLBでまだ処方できないのか?効果はどうか?
トレリーフはレビー小体型認知症(DLB)では適応とは認められていません。効果は十分な使用経験がないため、何とも言えません。
・点滴がスタンダードな治療方法になるのはいつごろですか?
今の治験がうまくいったとして、日本政府が認めてくれるまでには数年以上の時間が必要だと思います。
・新薬として認可が下りそうで使えそうなものはどんなものがありますか?
今のところほとんどありません。
・薬の合う合わないの判断はどこでしているのか?副作用について個々によって違うものなのか?
効果と副作用の両面から見る。効果はあるが副作用もあるという場合もある。たとえば貼り薬は皮膚が赤くなることが多いためステロイドを塗布して効果が見られるからそのまま継続という場合もあります。生活がよくなることが治療だと思う。その際ケアの部分も一緒にしてもらったらいいと思います。
メマリーは副作用あるといわれているが実際は少ないです。ガランタミン、アリセプトは消化器症状がでるなどがあります。副作用がある場合は他の薬で補うというより別の薬に変更する場合が多いです。
・漢方薬は効果があるのか?
どの薬もどこにターゲットを絞った薬なのか?ということを理解します。興奮を抑制するのは抑肝散と言われています。その一方でカリウムが低下したり血圧が少し上がったりなどの副作用も見られます。作用と副作用を考えながら、本人がより良い人生を過ごせるように考えて使うことが大切です。
・早くから服用すればよいといわれているが、どの程度から始めたらよいか?量は?
認知機能低下の原因を調べ、その原因が何か?何が困っているかをみて薬を服用します。たとえばビタミンが不足しているようならその薬を飲んでもらったり、甲状腺機能が低下している場合はそれを補正します。また環境にも影響を受ける(怒られてばかりの時に飲むと怒るかもしれない)ため環境を整えながら薬を飲み始めることが大切だと思います。
・料理や化粧が面倒と81歳の母が言う。今何をしたらいい?早期点滴で治る?
歩けるかどうかが重要だと思う。思い出話ができる環境を作ることが大切なため、福祉、DS、DC訪問看護、訪問リハビリなど使いながら楽しく歩いたりおしゃべりすることが重要だと思います。若年性の方の中には化粧の順番が分からずできなかったが順番に並べておくとできた方もいます。そうやって一人でできると楽しいものだと思うようです。
・点滴という話が出ていたが、どのような治療になるのか?その投与後の副作用はあるのか?
アルツハイマー病はβアミロイドが沈着することで起こるといわれている。沈着した時は特に症状はないが、しばらくすると脳の機能障害が起こる。それによって8割から9割の方に機能障害がでます。その認知症になる前の早い時期に点滴をしたり、皮下注射などがある。それを続けることで1,2年の間にアミロイドがなくなるというデータはあります。現在第3相試験になっており、その結果がよければアルツハイマーならだれでも受けられるようになります。ただしβアミロイドは脳に沈着するのが基本だが脳の血管にも沈着することもあるため、血管がもろくなる。そのため浮腫や微小な出血を起こす方もいます
・メマリー以外のアリセプト、レミニール、リバスタッチ(イクセロンパッチ)はどのように使い分けているのか?どういう特徴の方にこれとか決め手はあるのか?
薬の使い分けは難しい。周囲が怒るような環境の中で飲むと怒りやすかったり優しい環境の中だと穏やかになったりする。そういうところが記憶とうまく結びつくとよいと思います。
アリセプトは記憶がよくなりやすいところはある。レミニールは血管障害を合併しているアルツハイマーの方や日常生活に困っていたり、発語が出にくい方は効きやすい。
貼り薬は食べなくなった、化粧をしなくなったなど「○○しなくなった」などという時に使います。
人によって何が困っているのかそれによって薬を使い分けます。
・どの段階で治療に効果があるものなのか?
抗認知症薬は、認知症の進行を止めるものではなく、残存機能を最大限に働かせる効果を期待しています。軽症で予備力のある人は進行が遅らせる効果がありますが、病状が進行すれば予備力がなくなり、薬の効果は落ちることになります。したがって、軽症例で服用すればある程度まで進行が止まってみえると期待できます。重度になると予備力もないので、薬の効果は乏しくなります。
・家族の対応次第で症状も改善されるという話だったが理解度や家族関係で格差が生じ、中々思うようにいかない。でも頑張る価値はあると思う
家族の対応で、病状が変わるのは周辺症状についてと思われます。記憶障害や時間や場所がわからない見当識障害などは中核症状と言われ徐々に進む症状です。認知症が進行し、適切に行動できなくなった時に、適切な家族の援助があれば不安や困惑は生じないかもしれません。不適切な家族の対応では怒りっぽくなったり、気分が落ち込んだりしやすくなります。不適切な行動を叱ってはいけないと言われますが、認知症の人の気落ちを考えながら、プライドを大切にしながら介助したり誘導したりすることはできるでしょう。
・妄想性障害、統合失調症、発達障害などの精神的な病気がある場合、心のゆがみがあって本人の望みが非現実的で前向きになれない場合はどのように対応すればよいか?
認知症での妄想は、記憶障害に基づく物盗られ妄想、家族との力関係が変わることで生じやすい嫉妬妄想などが多いのですが、本人の立場を理解した対応をすることで妄想が起こっても重症にならないようにできます。統合失調症や妄想性障害で非現実的になることがありますが、抗精神病薬が効果なことがあるので、精神科の先生に相談してください。
・認知症対応のスペシャリストになりたい!!認知症サポーターなど何か関連資格はあるのか?お勧めの関連書籍はあるか?
認知症サポーターやサポートリーダーは各市町村で講習があり養成されています。関連の書籍は山のようにあります。誰が何の目的で書いたかで内容が異なってきます。医師向け、家族向け、一般人向け、介護者向けとあります。医師が書いたもの、介護者や家族が書いたもの、当事者が書いたもので視点が異なりますから、いろいろな立場の本を読んで自分で考えることが必要だと思います。
堂々と「認知症が治る」というような本は信用しない方がよいと思います。認知症の人と毎日をただ過ごせる人もスペシャリストです。
・認知症の方同士を同じテーブルにすると延々と同じ話を繰り返し、相手もかみ合わない話をつづけそれなりに楽しく会話が成り立っているように思われるが、それでよいのか?
重度の認知症の人が集まって何か話しています。側で聴いていると全くかみ合っていません。少し離れて見ていると、和気藹々で井戸端会議をしているようにしか見えません。お互い一方的に話しながら、頷いている。それでいいのではないでしょうか。
・内科のクリニックの医師(かかりつけ医)の方へも認知症の非薬物療法を徹底してもらいたい
かかりつけ医の先生も認知症対応の機会が増えています。一般の診療の傍ら、まとまらない認知症の人から要領よく話を聞きだすのは至難の業です。できれば薬で治療したいというのが実情でしょう。何とかしたいという意欲は高いので、これからは非薬物療法での対応も増えてくると思います。
・非薬物療法の中で最も有効と思われるものは何か?
・非薬物療法で非常に改善された例があれば教えてもらいたい
例えば回想法で認知症の進行が抑制されるということはありません。昔を思い出し、ワイワイと話しができることで、自慢の過去を披露することができます。話す方も聴く方も楽しく過ごし、満足した1日が過ぎるということで感情の安定によい効果が得られます。
絵画や音楽など好きなことができることで、周辺症状に対する環境調整と言う点で、非薬物療法は意義があります。最も有効な非薬物療法はと比較することには意味がありません。
楽しく、笑顔で過ごすには体調もよくなければなりません。食欲や便通、睡眠など日常生活をリズム良く過ごすことが大切です。
・お勧めの認知症予防を教えてほしい
今のところ、成人病を予防することです。高血圧、糖尿病、高脂血症などは放置せず治療しましょう。アルコールの飲み過ぎえを控え、タバコを止める、よく遊び、よく笑いましょう。
・家族に認知症を理解してもらうためにどのような言葉をかけるか?
認知症とはどんなものなのかを理解してもらい、認知症の人を不機嫌にする法則を勉強していただくとよいと思います。これまでの家族関係が影響します。復讐しようと思っている人にはなかなか通じません。
・回想法を行うことで悲しい過去等思い出してしまうこともあると思う。そのような場合の対応を教えてほしい
悲しい過去も思い出すが、楽しい過去も思い出してほしい。回想法はいいことばかりではなく災害のようなものを思い出すこともある。感情的な変化として喜びもあれば悲しみもある。認知症がよくなるということではなく、感情の変化が出てくるということでまだこんなに気づくことがあるということを本人だけでなく周りも気づく。皆で生きているということを感じることが大切。
・岡山県内で認知症のリハビリテーションに積極的に取り組んでいる施設・ディサービスなどあれば知りたい
施設により様々です。全国的に展開している施設でも職員の虐待の問題があったように、介護職員の資質や教育によっても違います。認知症のレベルによっても対応が異なります。軽症でなければできない施設、重度でも対応できるところと様々ありそうです。頑張っている施設もあれば、これから対応を学んでいく施設もあるようです。介護施設の利用はケアマネージャーに相談するのがいいでしょう。
・学習療法や脳トレというようなものは認知機能にどのくらい有効か?
脳トレなどができる人は認知機能まだ落ちていないといことです。できない脳トレを嫌々するのは逆効果。それが楽しいと思う方がするのはよい効果がありますが、誰かにやらされるならばかえって楽しくできません。化粧や散歩なども同じように楽しみながらすることが大切。無理やりな生活でなく楽しく過ごせる環境を作ることが大切です。
・認知症の方に対するリハビリについて。重度になり指示の入らない人のリハはどのようにすればよいか
重度になると鏡を見て自分に挨拶したり、失禁しているがそれが分からないなどいろいろなことが分からなくなります。(失行、失認)たとえば失禁していて取り替えようとするが本人はパンツを脱がされようとしていると思い、介護に抵抗する場合もあります。
ユマニチュードとは言葉ではなくジェスチャーや笑顔など言葉以外の交流伝達方法です。こちらが怒っていると相手にもそれは伝わるのでこちらが笑顔を大切にしているということをどう伝えるか?ということ。なるべく相手の嫌なことはしない。認知症の人がどうしてほしいのか?何をして欲しくないのか考えながら介助していくことが大切だと思います。
・4大認知症でも重複型の人などいると思う。その場合、治療とか薬の選択をした方がよいのではないか?
4大認知症でも合併することはあります。基本的には4大認知症を考え、それに当てはまらない場合は、様々な特殊な疾患を鑑別していきます。レビー小体型認知症ではうつ病などの精神疾患との鑑別が難しいこともあります。診断名に捕らわれずに、それぞれ症状を見ながら対象療法を行います。
・失われた機能、たとえば調理ができなくなった人がそれを取り戻すことはできるのか?
完全には無理だと思いますが、少しは可能かもしれません。一つはこう認知症薬による治療、もう一つはリハビリテーション、それらで少し改善する可能性はあると思います。
・家族の介入、かかわり方が大切だと思うが、医師としてそのあたりの説明や必要性をどの程度家族に伝えてくれるのか?また説明をしない場合は本人と家族の橋渡しは誰がしているのか?
ご家族が認知症について十分勉強されることは必須だと思います。少し講演を聞いただけですべてが分かるわけではなく、たくさんの書物も読んでいただき、専門医にもご相談いただき、よりよい対応をしてみてください。
・薬はいつまで飲み続ければよいのか?やめ時はあるのか?
長谷川スケールが一桁の前半になると症状の改善や維持は難しいと思います。また一度やめて悪くなる場合はまた服用すればよいと思います。つまり効かなくなったと判断できたり、やめて悪くならなければ中止してもよいと考えます。
・そもそも治療はできるのでしょうか?
よりよい生活を目指すためなら治療は必要だと思います。今日の講演で話をしたことを積み重ねていくことがよりよい治療につながると思います。
・社会的に孤立している高齢者こそ認知症の人が多いのではないか?ゴミ屋敷の住民は認知症なのか?
ゴミ屋敷の中におられる方のすべてではありませんが少なくとも一部の方は認知症であろうと思われます。社会的孤立というのはよい視点。家に引きこもっている人の中には認知症の方もいます。そういう方々を地域でいかに救うか?対応するかが今後の課題であり、岡山市も認知症疾患医療センターも取り組んでいます。
・それぞれ人間には「個性」というものがありますが、認知症になるとなぜ同じような行動をするのでしょうか?
認知症の症状は個性とは関係のないもっと基本的な脳の機能低下の表れだと思います。
・地域包括ケアシステムについての本音を聞かせてほしい。(問題点、改善点など)
団塊の世代が後期高齢者になる年が2025年であり、2025年問題として警戒されています。団塊の世代の方々が病気になり、入院や入所するようになると各病院・施設などのベッドが埋まってしまい大変なことになると予想され、そのために在宅でケアを受けるという構想があり、これを総称して地域包括ケアシステムと言っています。やはりやむを得ないことだと思います。概念的な構想であり、今のところ問題点や改善点は見当たりませんが、今後、具体化されていく中でそれらが見えてきて修正されていくものと思います。
・施設へ入所すると家族はまかせっきりになるという様子が見られる。つながり続ける難しさを感じる
その通りだと思います。そうならないために施設側が工夫を凝らすことが重要です。私もかつて精神科病院で老人病棟を担当し、同様のことを経験しています。当時は最低月に1回は病院に来ないと退院していただくという通知をだしてご家族に来ていただいていました。今の時代にはそぐわないやり方だったかもしれませんが、工夫が大切なことだと思います。
・診断はDLBだがパーキンソン症状も目立たず、幻視ではなく、幻聴だが、診断は正しいのか?
レビー小体型認知症(DLB)の診断基準の中にはパーキンソン症状、幻視、認知機能の変動がありますが、他にも妄想や幻聴などの精神症状がみられることは比較的よくあることだと思います。そのDLBの診断がどんなことに基づいているか存じませんが、幻聴があるからDLBと診断されたのではなく、DLBで幻聴もあるというように受け止めたほうがよいように思います。
・アルツハイマー型認知症の義父を義母が一人で見ている。義母は他の家族がいる前で義父に「今尋ねてきた人は誰?」などと聞き、その際義父は特に怒るわけではなく「わからない」などという。あまりそのような問いかけはしない方がよいと思うが、どう助けてあげれば良いか?
認知症の患者さんの介護を一人で一手に引き受けてしまうのはよくありません。今のままでは義母様はおそらく疲れ果てていてそのような対応がダメだと言っても受け入れられないと思います。介護全体を見渡してご家族などで分担して対応して差し上げてください。そうすると各々の方に余裕ができてしてはいけないことを理解できるようになると思います。
・認知症は軽度であれば回復する病気なのか?老化が災いして回復しないのか?また病気なのか
多くの認知症は病気だと考えられています。認知症と診断された方で亡くなられた後、脳を調べてみますとごく一部の人で単なる老化という結果が出ることはありますが、あくまでもごく一部です。ほとんどの方が病気として考えられています。
認知症という診断が正しいとすれば回復は極めて困難だと思います。老化も認知症の危険因子の一つですから認知症を促進する方向に働くものと思います。
・将来の予防にはどの年代から気を付けたほうがよいか?
遺伝性でなければ中年期から気を付けてください。
・激しく混乱しているときの対処法は?
その状態がなぜ起こっているのか検討してください。その原因によって対応策を考えてください。原因が全く不明で混乱・困惑状態に陥っているとすれば薬の治療も考えることはあります。
・79歳の父親で軽度の認知症と診断され2か月に一度帰省している。独居で部屋の中に物が沢山あるが、勝手に捨ててよいのか?もともと捨てられない性格ではあった。
軽度の認知症ということならばご本人が十分意思表示ができると思いますのでご本人とよくご相談ください。一般に独居のご老人が認知症になり始めたとするとご家族が今後の対応策を十分にご検討いただきたいと思っています。